女性泌尿器科のイメージ

泌尿器科というと男性がかかる診療科というイメージがあるかもしれませんが、女性にももちろん泌尿器の病気があり、さらに泌尿器の病気には女性および男性それぞれに特有のものがあります。たとえば男性では前立腺に関わる様々な病気があります。女性では骨盤臓器脱、膀胱炎が多く見られるなどの特徴があります。そうした男女の違いを踏まえ、女性の患者さまに寄り添った形で検査や治療方針を決め、診療していくのが女性泌尿器科です。

女性泌尿器科でよくみられる疾患例

  • 骨盤臓器脱(膀胱脱、子宮脱、直腸脱、膣断端脱)
  • 腹圧性尿失禁(咳やくしゃみで漏れる)
  • 間質性膀胱炎(ハンナ型、慢性膀胱痛症候群)
  • 過活動膀胱
  • 排尿障害
  • 神経因性膀胱など

骨盤臓器脱

骨盤臓器脱とは、骨盤内にある膀胱や子宮、腸などの臓器が膣の出口の方に下がってきてしまう疾患です。通常それらの臓器は骨盤の底の筋肉などの組織で支えられていますが、出産、加齢、肥満、さらには慢性的な咳や便秘などによって、組織が損傷したり、弱くなったりすることで発症するものです。下がってくる臓器によって、膀胱脱、子宮脱、直腸脱、小腸瘤、膣断端脱とも呼ばれます。

骨盤臓器脱の症状としては、陰部(膣)の中に何かが触れる感じ(異物感)や、何かが下がってきている感じ(下垂感)がする、排尿しづらいといったものから、頻尿、尿失禁、便秘、排便困難などの症状が現れる場合があります。夕方になるほど症状が強くなることが多く、また立ち仕事をしていると症状が出るが、座ると楽になる、といったことも特徴です。

治療法として、根本的なものとしては手術となりますが、軽度の場合、骨盤底筋を鍛える体操を行うというものがあります。ただし、効果が出るまでに時間がかかる場合があり、改善度合いについては個人差があります。その他、ペッサリーというポリ塩化ビニル製のリング状器具により、下垂部分を押し上げるという方法があります。ペッサリーは体にとって異物であるため、長期間挿入していると炎症を起こしてしまう場合がありますので、ご自身で器具の出し入れをしていただくか、数カ月置きの通院が必要となります。

当院では、患者さまの状況やライフスタイルに合わせ、またご希望を伺った上で、治療方法についてご提案していきます。

膀胱炎

膀胱炎には急性膀胱炎と慢性膀胱炎があります。急性膀胱炎は膀胱に細菌などの微生物が侵入し、炎症を引き起こすもので、男性より女性が罹りやすくなっています。放置しておくと炎症を繰り返す慢性膀胱炎に移行する場合もあります。原因となるのは大腸菌などの腸内常在菌で、細菌以外ではクラミジアやウイルスが原因となる急性膀胱炎もあります。急性膀胱炎の症状としては、排尿時の痛みや残尿感、さらには白濁した尿や血尿、下腹部痛、尿失禁等がみられる場合もあります。

慢性膀胱炎は、急性膀胱炎が再発を繰り返して慢性化したものと、尿路結石や糖尿病などの基礎疾患が原因となり細菌に感染して発症するもの(慢性複雑性膀胱炎)と、さらに非細菌性によるもの(更年期で膀胱粘膜が変性したり過敏になったりして起こる)とがあります。他には薬剤性や放射線性のものもあります。症状は急性膀胱炎と同様のものがありますが、急性のものよりは比較的軽度で、主に下腹部の不快感が生じます。

この他、間質性膀胱炎(ハンナ型/慢性膀胱痛症候群Interstitial Cystitis/Bladder Pain Syndrome ; IC/BPS)というものもあります。膀胱の粘膜層が壊れ、その下の粘膜下層(間質)で炎症が起こるものです。これは原因がまだよくわかっていませんが、重度の頻尿に見舞われ、膀胱に尿が溜まっていくにつれ激しく痛む(排尿すると痛みが和らぐ)、尿が白く濁る、といった症状が現れます。

膀胱炎の治療としては、細菌が原因の場合は、原因菌を調べ。抗菌薬の投与を行います。慢性の場合は、まず原因となっている疾病の治療や薬剤等の変更を考え、症状によっては抗菌薬を用います。間質性膀胱炎は難治性であり、専門の医療機関をご紹介することとなります。

腹圧性尿失禁

咳やくしゃみをした拍子に、尿失禁をしてしまうのが、腹圧性尿失禁です。これは尿道抵抗の低下や、膀胱や尿道などを支える骨盤底筋のゆるみによって引き起こされます。もともと女性は男性に比べて骨盤底筋の力が弱く、尿道も短いことから腹圧性尿失禁が起こりやすくなっています。そこに加齢や、お腹に力のかかる動作の繰り返し、出産、便秘などの要因で骨盤底筋に負担がかかり、ゆるみが促進されてしまうのです。

治療法としては、排尿に関わる筋肉を鍛える骨盤底筋体操によるものがあり、症状の改善に有効な薬の内服による治療もあります。ただし、根本的に治療するためには、尿道スリング手術と呼ばれる手術が必要になります。その場合は、連携する専門の医療機関をご紹介いたします。

過活動膀胱

過活動膀胱はOAB(Over Active Bladder)と呼ばれるもので、以下のような症状が現れる疾患です。

  • 尿意切迫感:突然トイレに行きたくなる (水に触ったり、寒い戸外に出ると尿意を催す)
  • 切迫性尿失禁:トイレまで我慢できず下着を下げる前に漏らしてしまう
  • 夜間頻尿:夜中に何度もトイレに起きる
  • 昼間頻尿:日中でも何度もトイレに行く

尿が膀胱に一定以上溜まると、脳に伝わって尿意が生じ、さらに脳の命令によって膀胱の筋肉を収縮させ、排尿する仕組みになっています。過活動膀胱では、この仕組みに異常が生じて膀胱が敏感になり、尿が貯められない、我慢できない、急に膀胱が収縮して漏らしてしまう、といった症状が引き起こされると考えられています。

治療としては、膀胱の筋肉が過剰に収縮するのを抑えるなどの働きを持つ、抗コリン薬、β3作動薬などの内服薬を用います。さらに膀胱訓練(トイレに行くのを少しだけ我慢する)、骨盤底筋訓練などを行います。これらによって改善されない場合は、ボツリヌス菌によるボトックス療法や仙骨刺激療法といった手術が必要となることもあります。その場合は専門の医療機関をご紹介いたします。